現生しているサメたちによく似た祖先は、今から約一億五千年前に出現し、それから現在までサメの姿形はほとんど変わりません。つまり、サメは永い期間生存競争を勝ち抜いてきた「生きた化石」なんです。では、なぜここまで生き残れたかというと、主にエサとなる獲物を捕らえて食べるための驚くような能力を獲得できたからなんです。
今回の記事では、そんなサメの“超”能力についていくつか解説していきたいと思います。
●“超”能力レベルなサメの感覚
人には、「視覚」「嗅覚」「聴覚」「触覚」「味覚」と呼ばれる五感が存在します。サメにも、同じような感覚器官が存在しますが、特に「嗅覚」「聴覚」においては、人や犬よりもはるかに高い感受性をもっています。また、「電気受容感覚」という特殊な能力も持ち合わせているんです。
ここでは、サメの五感+αについて解説していきますね。
嗅覚(におい)
サメには、鼻孔(びこう)があり、その孔の中にある嗅細胞で水中のにおいを感じ取っています。その感覚の強さは、なんと25mプールに落とした血の一滴を嗅ぎつけるほどなんです。この驚異的な嗅覚は、広い海でエサとなる生き物のにおいを探す際に役立っているんですね。一方で、鋭敏すぎる嗅覚のため、近くで大量の血が流れていたりすると、集まってきたサメの群れがまとめて狂乱状態に陥ってしまうことがあります。高すぎる能力は諸刃の剣という訳なんです。
聴覚・側線感覚(音・振動)
サメには人のように、それとみて耳とわかるような部位はなく、ただ小さな穴が開いているだけです。というのも、人の暮らす空気中は水中に比べてはるかに音の伝わり方が遅いことと、耳に音を集めて中耳・内耳を振動させないと音が聞こえないことから、耳を発達せざる負えないのです。対して、サメが暮らすのは音の伝わりやすい水中かつ、サメの体自体が周囲の海水と同じような密度のため、音はそのままサメの体の中に響きます。そうした理由から、サメの耳の構造はとても簡略化されているのですね。
また、サメにはもう一つ音や振動を感じ取る器官として「側線」があります。これは、体の側面に側線孔というものが一列に並んでおり、その孔の中には感覚細胞があります。この側線器官は主に近くにいる獲物の動きや音を感知するのに使われており、あるサメは250m離れた地点から、正確に音源へ近づいてくるほどの力があるようです。
視覚
サメの目は、角膜、虹彩、レンズ、ガラス体、網膜などからなり、その構造は人と大きく変わることはありません。ただし、サメは夜行性の種類が多いため、暗い所でより見えやすいようにタペータムという構造があります。これは、網膜の後ろ側にある鏡のような役割で、目から入った光を反射させることで桿体細胞を2度刺激することが出来、暗く光の少ない場所でもものをはっきりと見ることが出来るんです。暗い場所でフラッシュを焚いてサメの写真を撮ると、サメの目が光って見えることがありますが、あれもタペータムがフラッシュの光を反射するため、光って見えるという訳なんですね。
味覚
サメは人と同じく、口の中に味を感じる味蕾があります。目の前の獲物がエサかどうか、味をみて最終的に判断するため、とりあえず噛んでみる「試し噛み」のような行動も見られます。サメが人を襲う被害で一番多いのが、ひと噛みして逃げる「噛み逃げ」攻撃ですが、これも、人は普段食べているものと違うため、エサかどうか確かめるために噛んで、違うとみて逃げてしまうことが多いからではないかといわれています。
電気受容感覚(電場・磁場)
サメ類は頭部にロレンチーニ瓶という感覚器官をもっており、そこで弱い電場や磁場を感じ取るという特殊な能力を持っています。獲物は動く際に筋肉運動で微弱な電気を放ちます。そのため、どんなに視界の悪い場所や砂の中だとしても、電場を感じることで獲物の大まかな位置を割り出すことが出来るんですね。また、地球の磁場や地磁気によって、大海原を迷うことなく回遊したり、群れの中での社会関係の維持などにも用いられていることが近年分かってきています。
●歯は生涯生え変わる!?サメ顎のミラクル
サメの怖さの7割ほどを担っているといっても過言ではないのが、口の中にずらっと並ぶ鋭い歯でしょう。もちろん、サメの種類によって、鋭い三角形、尖った三又、丸い小石のような形など、歯の形も変わってきます。しかし、サメの仲間は全て、生まれてから死ぬまで、一生新しい歯が頻繁に生え変わるのです。私たち人間は、乳歯と永久歯のみで、永久歯が折れたり欠けたりしてしまったら、二度と元に戻すことはもちろん出来ません。そのため、歯磨きや虫歯治療など、歯を守るために時間と労力を使っています。対して、サメの仲間たちは、歯が欠けたり折れたりしたところで、すぐに新しい歯が生えてきます。歯磨きが必要ないどころか、虫歯に悩まされることもありません。なんだか、とても羨ましい話ですよね。
サメの歯の交換がどのように行われるかというと、顎の先端に並んだ使用中の歯の内側にこれでもかとばかりにズラリと歯が並んでいます。そして、数日かけてベルトコンベアの様に後ろの歯が前の古い歯を押し出し、古い歯は脱落、新しい歯が先端に揃います。この生え変わる頻度はサメの種類によって異なり。2日~1週間程度の期間で生え変わります。また、歯の交換方式は、「一斉」タイプと「バラバラ」タイプの2種類あるようです。前者は、オンデンザメやダルマザメの下顎歯などに見られる方式で、使用中の歯が一気に全て抜け落ち、新しい歯に生え変わります。後者は、メジロザメの仲間などに見られる方式で、一本抜けたらその一本だけ生え変わります。
●まとめ
・サメは人や犬よりはるかに優れた「嗅覚」「聴覚」を持っており、それらを利用して大海原で獲物を見つけている。
・電場、磁場を感じ取る電気受容感覚と呼ばれる特殊な能力を持っており、獲物の探知、回遊ルート決定、社会関係の維持などに利用している。
・サメの歯は、一生涯新しい歯が頻繁に生え変わり続ける。
サメは永い歴史の中で、獲物を捕るための鋭敏な感覚や特殊な能力を獲得してきました。その多くが、獲物を効率よく手に入れるために利用しており、まさに海のトッププレデターに君臨し続けてこれた理由でもあるんですね。どうしてもサメは怖いイメージが先立ちますが、怖さの裏にある驚きの能力や魅力に目を向けてみてはいかがでしょうか。
コメント