魚には一見とても変わった形をしている種類がいます。それぞれが生活様式や環境などによって進化や退化を繰り返し、現在の形にいきついています。
シュモクザメ科に分類されるサメの仲間は、とても変わった頭の形をしています。
頭が平たく横に広がった金槌のような形で、英語でもHammerhead Shark(ハンマーヘッドシャーク)とも呼ばれています。
今回は水族館でも気になる魚として質問が多く寄せられるシュモクザメのお話をしていきます!
シュモクザメの種類
シュモクザメは現在2属9種類が確認されています。主に日本で見られるシュモクザメは3種類です。
・アカシュモクザメ
世界中の暖かい海に生息しています。日本では関東から南に多く、浅い沿岸海域でよく見られます。
最大で3~4m程まで成長し、水族館でも一番よく展示されている種類です。
体色が若干褐色気味で、平たい頭部の前縁中央部がへこんでいるのが他2種と見分けるポイントです。
・シロシュモクザメ
世界中の熱~温帯域に生息しています。日本では全国で見られ、割と寒い海でも生息できるようです。沿岸海域から沖合まで広く生息しています。アカシュモクザメと同じくらいの大きさになり、水族館でもごく稀に見られますが、飼育が難しく長期展示が課題の種類です。
体色は少し青っぽく、頭部の前縁中央部がすこし突き出ているのが特徴です。
・ヒラシュモクザメ
世界中の熱帯域に生息していますが、近年数が激減しレッドリストにも絶滅寸前とされている貴重なサメです。日本では琉球列島などの沿岸部で見られます。シュモクザメ科の一番大きくなる種類で、最大6.1mの個体が発見されています。
体高が大きく背びれも大きく尖り、頭部の前縁は凸凹せず一直線になっているのが特徴です。
シュモクザメの“シュモク”って?
シュモクザメという名前の“シュモク”とは一体どういう意味なのでしょうか?
その由来はこの頭の形からきています。“しゅもく”は撞木と書き、形がT字になっている木製の鐘などの和楽器を叩く道具のことです。その撞木に頭の形が似ていることからシュモクザメと名が付いています。
機能的な撞木型の頭
一見生活しづらそうなシュモクザメの頭には、実は便利な役割が多くあります。
機能その1:感覚機能がえげつない
ほとんどのサメの頭部には、ロレンチーニ瓶と言って生物が出す微弱な電気を感じ取る器官があります。サメたちは目があまり良くないため、ロレンチーニ瓶から感じ取る電気などを頼りに獲物を探します。通常のサメの頭の形はロケットのように三角形をしている種類が多いですが、シュモクザメは横に広がりしかも大きいです。ほかのサメに比べてロレンチーニ瓶が多く頭に含まれていますので、獲物をより瞬時にそして遠くのものでも見つけることができると考えられています。
機能その2:余裕の急旋回
サメたちの体には生活様式などによって体の形は全然違いますが、常に泳いでいるようなサメの形は流線形でロケットのような形をしています。その形により早く前に進むことはできますが、急に方向を変えようとしても体を思いきり横に振ったり、スピードを緩めたりしなくてはいけません。
しかしシュモクザメの平たく横に広がった形は、言うなれば飛行機の翼のような役割をしていますので、少し左右に傾ければ泳ぐスピードは変えずに急旋回も可能となっているのです。水族館でぜひシュモクザメと他のサメとの泳ぎ方の違いを観察してみてください。
機能その3:獲物捕獲道具
シュモクザメは主に魚や甲殻類、イカやタコなどを食べています。しかし時には小さなサメやエイも襲って食べます。
海の底に暮らすエイ類を捕獲するときにこの頭を使います。砂に隠れるエイを優れた嗅覚とロレンチーニ瓶を使って発見し、エイの上から近づきます。そしてこの頭を使ってエイを押さえつけて捕獲してしまうのです。押さえつけられて動けないエイを捕食するというシュモクザメの機能勝ちというわけです。
機能その4:視野が広い
横に広がった頭の両端に目がそれぞれついているので、その視野は普通のサメよりもかなり広くなっています。ただ前方の頭部中央付近には少し死角が出来ているようですが、頭を振ることにより死角を補っているようです。
シュモクザメの繁殖様式
サメの繁殖様式は種類によって違います。大きく分けると2パターンあり、卵を産み落としてそこから仔サメが生まれる「卵生」と、母親のお腹の中である程度育った後生まれてくる「胎生」です。
シュモクザメは胎生のサメで一度に多くて40~60匹の仔ザメを生みます。母体の中にある2つの子宮でそれぞれ子どもはへその緒で母親とつながり養分をもらっています。ですので生まれたばかりのシュモクザメのお腹を見ると、まだおへそがある個体もしばしば見られます。
夏になると餌の多い浅い沿岸域に近づいてくるため、海水浴場に大きな群れが現れたり、定置網に100匹を超えるシュモクザメがかかることもよくあります。
↓水族館でのシュモクザメ
水族館では主にアカシュモクザメを展示しています。近所の漁師さんの定置網にかかったアカシュモクザメを水族館に持ち帰り、まずは水槽に慣れることと餌に慣れてもらうことから始めます。
水槽の壁などに衝突して大けがをしたり死んでしまってはいけませんので、なるべく大きくそして円形の水槽の内側に衝突による怪我の防止のシートを設置します。
徐々に水槽に慣れると続いては餌を上からタイミングよく落とします。魚の切り身や小さなイカなどを、顔の前に餌が来るように狙って投げ入れると、タイミングが合えば食べてくれます。餌に慣れると底に沈んだ餌でもきちんと拾って食べてくれるようになります。
完全に水族館に慣れると餌を投げ入れた瞬間に水槽の水面近くをうろうろと泳ぎ回り、しきりに餌をさがす行動も見ることが出来るようになります。
大きな水槽に小さな小魚の群れを入れている水槽のシュモクザメは、こっそりその小魚を食べてしまっていることもあるとかないとか…。飼育員もなるべく餌を十分に与えて捕食がないように心がけていますが、自然の摂理にはかないません。
人気記事
コメント