前回はこの鬼崎のりの養殖についてをお伝えしてきましたが、今回は収穫~加工までを引き続きレポートいたします。
鬼崎のり収穫~加工レポート
養殖用の海苔網を海に張り込んでから約1カ月。潮の満ち引きや水温を見極めながら海苔の成長を見守ってきました。
11月下旬の寒い時期からいよいよ摘採と呼ばれる収穫が始まります。
寒い時期に収穫する理由
何故こんな寒い時期に収穫をするかというと、海水温が上昇して18℃くらいになってしまうと、海苔が「葉状体」という繁殖のための状態になって、食用には適さなくしまうからだそうです。
しかも、海苔が最も栄養を蓄えていておいしいと言われるのは光合成が始まる前。つまり日の出前に収穫したものとされているので、最盛期には深夜2時くらいから作業が始まり、早ければ5時には収穫を終えます。
収穫時期は11月下旬から春先までの寒い時期ですから、寒さとの戦いです。
真冬の深夜に養殖場へと向かい、「潜り船」と呼ばれる船を使って収穫していきます。
この船で網の下を潜るように進みながら20cmほどに伸びた海苔を回転する歯で切り取って集めていきます。
普通に食べている海苔の状態だとわかりませんでしたが、手に取ってみると海苔の意外な長さに驚きます。
収穫から加工場へ
切り取られた海苔はそのまますぐに加工場へと運ばれていきます。
海苔は鮮度を落とさないうちに加工することが大切なので、到着したものからすぐに加工されていきます。
一番早い人だと5時くらいには加工場についているそうですよ。
まずは鮮度を落とさないために90%くらいまでの濃度に高められた酸素を送り込みながら撹拌する「撹拌タンク」へと収穫された海苔が入れられます。
薬品などは一切使わず、このタンクによって加工までの少しの間も品質を落とさないように保つ努力がされています。
ここから板海苔には不要なゴミ(小エビや落ち葉、海苔網のかけらなど)を丁寧に取り除いてから細かく刻んでいきます。
普段私たちが安心して海苔を食べられるのもこういった細かな異物を取り除いてくれているからなのですね。
この刻みの工程によって海苔の厚さなどが大きく変わるので、刻むための歯にもたくさん種類があるそうです。
分厚い海苔や硬めのしっかりした海苔は少し小さめに刻むそうで、その時の海苔の状態にあったものを選んで使います。
一気に細かくするのではなく、初めは大きめに刻み、何段階にも分けて段々と均一に細かくしていきます。
細かく刻まれた海苔は真水で洗われながら、和紙の紙すきのように四角い型へと流し込まれていきます。
海苔に表裏ができるのはこの時で、つやの少ないざらざらした面にでこぼこした跡がつくのはすき込みの時に敷かれた「簀」の跡なんですね。
すきこまれた海苔は2回に分けて強い圧力をかけて水分を押しだされ、下から光を当てて均一な厚みになっているかをチェックされてから簀ごと立てかけられて乾燥の工程に入ります。
建物1棟当たりののり
鬼崎漁協では24時間連続稼働させるとcheck建物1棟当たり約18万枚の板のりを作ることが可能だそうです!
組合が管理している共同加工場は全部で9棟あるので24時間で162万枚…とてつもない量のように思えますが、海苔が取れるのは1年のうちでもたった4ヶ月ほど…。
ですから、この時期に1年分の海苔を作らなければならないと考えると、この生産能力も納得です。
たくさんの工程を経て、ようやく私たちの見慣れた四角いパリパリの状態になった海苔の出来上がりです!
続いてチェックの工程
このあと出来上がった板海苔は、出荷前に厳密な品質チェックを受けます。
初めに金属探知機にかけます。何故金属?と思うかもしれませんが、check目に見えないような機械のサビなどが万一にも入っていないかをチェックする必要があるからなんですね。
安全のための見えない努力の一つです。
その後は海苔の状態によって分けていくのですが、機械でのチェックによってはじかれた規格外の海苔はパートさんたちの手作業でさらに細かく分けていきます。
基本のチェックポイントは次の3つ。
1、小さな穴のあいているもの(穴等級)
2、端の部分が欠けているもの(ヤブレ等級)
3、海苔をすいたときに簀にくっついて穴が開いたもの(別ヤブレ等級)
ここではじかれた海苔は廃棄されるわけではなく、刻み海苔や加工用として少しお安く卸されていきます。
どんなに機械化が進んでも、こういった作業だけはやはり人の手や目で行う必要があるんですね。
細かな品質チェックに合格してきた海苔は100枚(10枚×10セット)を1単位として束ねられていきます。
束ねるための帯には鬼崎漁業協同組合の名前のほかに、きちんとそれぞれの海苔の生産者さんの名前が書き込まれています。
農作物などですと、色々な農家さんの生産物が人箱に混ざって出荷されることもあるので生産者の名前が明記されることは少ないそうなのですが、海苔はそれぞれの生産者さんがわかる状態で加工から出荷まで一貫して製造されているので、こうしてしっかりと生産者さんの名前を書き込むことができるのですね。
束ごとにまとめられた海苔は、この後更に漁師さんや目利き者さんたちの厳しい目で検査され、色つやなどからグレードをつけられていきます。
この時、漁師さんは自分の生産したもの以外のグレードしかつけられないようになっているそうです。自分のところの海苔には最高級のグレードをつけたくなってしまいますからね(笑)
今まで知らなかった海苔の養殖や加工を拝見させていただけて、私たちも本当に勉強になりました。
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