いきなりですが想像してみてください。
あなたの目の前においしそうなエビチリがあります。それを口に含んで噛んだ時の効果音をイメージしてみてください。あなたが想像した音は「ぷりぷり」ですか?それとも「ぶりぶり」?もしくは「ぎゅっぎゅっ」でしょうか?
人によって様々な答えはあると思いますが、多くの人は「ぷりぷり」をイメージしたのではないでしょうか。
確かにぷりぷりの海老は美味しいですね。天ぷらの衣と海老のぷりぷりのハーモニーや、海老とブロッコリーとマヨネーズと一緒に和えたサラダの弾ける海老の触感は「これぞ海老!」という存在感を出してくれています。
しかし本当に海老の触感は「ぷりぷり」なのでしょうか。海老通の方は少し疑問に思っていることと感じます。今回はこの海老の食感について話を掘り下げていきましょう。
【海老チリに使われる海老】
「ぷりぷり」は創られた!?企業の思惑
海老の食感「ぷりぷり」を我々はどこで聞いているのでしょうか?スーパー?レストラン?はたまたレシピ本?候補を上げ始めるときりがないかもしれません。
すでに消費者の中で「海老=ぷりぷり」の方程式は出来上がっていると感じます。
では誰が最初に言い始めたのでしょうか。
これには諸説ありますが、海老の業界ではcheck大手冷凍食品会社の商品CMにて海老を「ぷりぷり」と表現されたのが始まりと言われています。
そこから一般に浸透し、今では食レポや調理レシピにも「ぷりぷり海老」といった表記が多く見受けられるようになりました。
こうやって「ぷりぷりな海老=美味しい」というイメージが出来上がったのです。
この手法は平賀源内の土用の丑の日や関西地方に根付く恵方巻と同じ原理であり、古くから日本で使われている宣伝方法です。
しかしどうして海老は「ぷりぷり」なのでしょうか。そこには保水剤と呼ばれる魔法の液体の存在が隠れています。
「ぷりぷり」は作れる!?保水剤の存在
海老本来の食感を「ぷりぷり」と思われている方には残念なお知らせかもしれません。「ぷりぷり」自体は海老本来の食感ではなく作られた食感である可能性が非常に高いのです。
この「ぷりぷり」、実は“保水剤”と呼ばれる液体によって作られているケースがほとんどです。
いきなり”保水剤”といわれてもピンとは来ない方がほとんどだと思います。そこでイメージしていただきたいのはコンビニのホットスナックコーナーにあるチキンを思い出してください。
サクッとした食感、あふれる肉汁。そう、この肉汁です。
一般的に鶏肉に保水剤は使用される傾向にあり、実は家庭でも知らないうちに保水をしていることがあります。
例えば鶏むね肉を柔らかくしたいとき、皆さんはどのように下準備をされますか?多くの方は醤油・料理酒・みりんなどの調味料を漬け込んでから調理しませんか。
お肉に水分を含ませる工程を保水と呼んでおり、含ませる液体を保水剤と呼んでいます。
そしてその技術を海老に活用してできた商品が「ぷりぷり」の海老になります。
つまり「ぷりぷり」は人の手によって作られているのです。
【保水されたむきえび】
魔法の液体”保水剤”と海老の関係
最初に伝えておきたいのは、check一般的に使用されている保水剤は安全性を考慮して作られているので安心してお召し上がり頂けます。
ただ一部リン酸塩については、摂り過ぎると体内のカルシウムとリンのバランスが崩れることによる骨の成長阻害や、貧血の原因になるともいわれており、一部の業者ではリン酸塩不使用を謳ったりしています。
しかし「海老に保水剤が入っている」と急に言われても実感がわかないかもしれません。そんな時はスーパーに行ってみましょう。
今の日本では加工食品に原材料・添加物の表示が必須となっています。そこでスーパーに売っている「むきえび」の添加物表示を確認してみてください。
多くの商品で「pH調整剤」や「リン酸塩」といった表記が確認できると思います。
これが保水剤の正体です。逆に保水剤の入っていないむきえびは非常に稀ですので、見つけたら是非ともご賞味ください。少なくとも食感がいつもの感じと違っていると思います。
ここでひとつ疑問に思われた方がいらっしゃるかもしれません。
なぜ「むきえび」なのでしょうか。
実は保水剤は殻付きの海老と相性が悪く、殻があると水分が細胞に染みていく割合が大幅に低くなります。そこで一般的にはむきえびに保水剤を使用する傾向にあります。
むきえびに次いで使用頻度が高いのが、天ぷら用の伸ばし海老です。こちらも殻をむいた際に漬け込むケースが多いです。
そして一番頻度が低いのが寿司海老です。寿司海老は殻付きのままボイルするケースが多く、保水できるタイミングが多くありません。
もしも保水剤の食感について食べ比べたい方は一度お寿司の海老とエビチリの海老を比べてみるといいかもしれません(なかなか同じテーブルに乗る料理ではないかもしれませんが)。
【保水された伸ばし海老】
「ぷりぷりの海老」誕生!保水剤の効果
では保水剤にはどのような効果があるのでしょうか。
一番の効果と言ってもいいのが海老を膨らませる作用です。膨らむ割合は海老や保水剤によって変化しますが、約1.1倍まで膨らむとしっかり保水した海老ともいわれています。
これにより海老の細胞に含まれる含有水分量が増加し、パンパンに膨れ上がった海老が出来上がります。checkこれが「ぷりぷり」の正体です。
さらに保水剤には別の効果があり、保水した海老を火に通した場合、保水していない海老と比べ海老が縮みにくいという追加効果があります。
これは非常に料理と相性がよく、中華料理の八宝菜やエビチリなど、海老の見た目がインパクトを決める料理にうってつけでもあります。
メリットがたくさんあるように見える保水剤ですが、デメリットがないわけではありません。
海老本来の食感を味わいたい料理にとって保水剤は天敵です。そして何より海老本来の味を薄めてしまいます。
例えば伊勢海老のお造りがパンパンに膨らんでいたらいかがでしょうか。海老の旨味は薄れ、食感はゴムのようになり、伊勢海老を満足に楽しむことは難しいでしょう。
このように保水剤も万能というわけにはいかないようです。
本来の海老の食感は「ぎゅっぎゅっ」とした身厚なものであり、特にそこに旨味を感じる天然シータイガーや伊勢海老、ボタン海老などの高級海老に保水剤を使う事は味を損なう事につながるため勿体無いかもしれません。
また最近の保水手法としてcheck海洋深層水を使用したむきえびがあります。保水効果によりぷりっとした食感にしつつ、海老本来の旨味を損なわないという特徴があります。
日々進化する保水技術は生産者が美味しい海老を届けたいという思いの結晶なのかもしれません。
いかがでしたでしょうか。
日常生活の中で食べる機会の多い海老ではありますが、保水剤の存在をご存じの方は非常に少ないと感じます。
しかし我々の知らないところで食品加工の技術は日々進歩しており、美味しい食事を届けてくれています。その中で今回は保水剤についてお伝えすることができました。
メリットとデメリットを理解し使い分けることで、本当においしい海老を味わうことができると思います。皆さんの食卓に知識のスパイスがかかれば幸いです。
コメント