柳カレイって知ってる?——常磐ものの実力と、福島の海に向き合うということ

管理栄養士日記

柳カレイって知っていますか? 

聞き慣れない名前かもしれません。私も福岡出身なので、正直なところ最近までその存在を知りませんでした。けれど福島県浜通り(いわき、南相馬など)や茨城県の常磐沖では、冬になると“柳カレイの唐揚げ”が食卓に並ぶほど、地元で愛されている魚なのです。

実はこの魚、日本海側の新潟・佐渡や島根などでも水揚げされ、そちらでは主に干物として親しまれています。北海道から九州北部まで広く生息しているのに、なぜあまり知られていないのでしょう?

その理由のひとつが、水分量が多く傷みやすい“繊細な魚”であること。だからこそ、鮮度のいい地元で食べるのが一番。地元の人たちが「冬のごちそう」や「幻の魚」と呼ぶのも納得です。

そして何より驚いたのが、そのおいしさ。唐揚げにすると、皮はパリッと香ばしく、身はふわふわ。「カレイ」と聞いてイメージする味とは、別物です。

常磐ものって、なに?__自分の子どもにも食べさせられる魚だけを出している

柳カレイを語るうえで、欠かせない言葉があります。

それが「常磐もの」。魚の名前ではなく、茨城県から福島県沿岸にかけての海域で獲れる海産物の総称です。

この海域、実は太平洋の寒流と暖流がぶつかる“潮目”にあたる場所で、1年を通して多様で質の高い魚が育つ好漁場。ヒラメ、アンコウ、メヒカリ、イシガレイ、そして柳カレイ…どれも“魚好き”の間では知られた存在です。

市場関係者の中には、「魚にうるさい人ほど“常磐もの”を欲しがる」と語る人も。脂のノリ、身の締まり、味の奥深さはプロも唸らせるクオリティ。鮮度のいい状態で地元に流通することが多いため、知る人ぞ知る「魚通のブランド」でもあるのです。

けれどこの「常磐もの」、2011年の原発事故以降は、長らくその名を耳にしなくなってしまいました。風評被害や出荷制限の影響で、漁ができない時期もありました。

それでも、地元の漁師さんたちは諦めませんでした。綿密な放射性物質検査と“試験操業”を何年も続け、ようやく少しずつ、福島の海からまた魚を出荷できるようになったのです。

市場に出ているということは、安全性が確認されているということ」。

それは当たり前のことですが、福島ではその当たり前を、10年以上かけて地道に取り戻してきたという事実があります。

そんな背景を持つ「常磐もの」。

ただおいしいだけでなく、「今、ここで食べること」に深い意味がある魚たちです。

柳カレイの魅力、最大化するなら“唐揚げ”!

地元の漁師や料理人が「一番おいしい食べ方」と太鼓判を押すのが“唐揚げ”。

水分が多く繊細なため、干物や煮つけも美味しいが、揚げることで香ばしさととろける食感が引き立つ。軽く塩をふり、片栗粉をまぶして揚げるだけ。中骨ごと食べられるほど柔らかい。

実際、福島県浜通りの食堂では、柳カレイの唐揚げが冬の定番メニュー。ごはんのおかずにはもちろん、福島の地酒やビールのつまみにもぴったりです。

家庭でつくるなら、こんな感じ

① 柳カレイをよく洗う
※表面のぬめりと非常に細かい鱗(すべりうろこ)が特徴の魚です。鮮度が高いものは、ややぬめりが気になるかもしれませんが、滑り鱗はごく柔らかく、こそがずにそのまま調理してもOK。気になる場合もさっと洗い流す程度で、ガリガリ擦ったりする必要はありません。

② 頭と内臓を取り除く

③ (中型以上の柳カレイは)観音開きにして、骨を揚げやすくする
※小型サイズならそのまま丸ごと揚げてOK。中骨もパリッと食べられます。

④ 軽く塩をふり、10〜15分ほどおいて旨みを引き出す

⑤ 片栗粉を薄くまぶし、180℃の油で揚げる
※仕上げにすだちやレモンを絞っても◎

「知ること」が、海の未来につながる

福島や茨城の常磐沖、そして新潟や島根といった日本海側でも漁獲される柳カレイ。その多くは“地元で消費される魚”です。理由は明確で、傷みやすく、流通には向かないから。だからこそ、地元で食べる新鮮な唐揚げが、一番おいしいのです。

そして、その背景にある「常磐もの」という言葉。

震災と原発事故を経て、福島の海と向き合ってきた人たちがいます。厳格な検査体制を整え、信頼を一つずつ積み重ねてきた漁業者たちの覚悟と努力。

自分の子どもにも食べさせられる魚だけを届けたい」。

そんなまっすぐな姿勢が、いまの“常磐もの”の価値を支えているのです。

知らなければ、きっと通り過ぎていた魚。
でも、知ったうえで食べる一皿には、物語があります。

柳カレイの唐揚げを頬張るその瞬間が、海のこと、漁師のこと、そして食のあり方を、少しだけ近づけてくれる。それは、きっととても豊かな食卓の風景なのだと思います。

プロフィール

GLOCAL EATs 
ソーシャルデザイナー 石松 佑梨(いしまつ ゆり)
サッカー日本代表選手をはじめ、世界で活躍するトップアスリートの専属管理栄養士として食トレを提供する。次代を担うジュニアアスリートの食育にも力を入れる。近年では雑誌や商品、レストランなどの栄養監修に携わる一方で、絵本作家としての活動に注力している。

著書:過去最強のコンディションが続く 最強のパーソナルカレー(かんき出版)
インスタグラム:personal_curry

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