今がまさに旬である「カニ」。タラバガニや毛ガニなどなど、冬の味覚の王様といっても過言ではないほど美味しいですよね。
その美味しさの秘密は、繁殖期である夏にむけて栄養をたっぷり蓄えているからであり、カニにとっては実は夏が本番!カニのオスたちによる、めくるめく愛(メス)の争奪戦が始まります。
今回はそんなカニたちの恋愛事情をご紹介したいと思います。
一度抱いたら離さない!カニの「交尾前ガード」
繁殖期になると、カニのメスたちは卵を産む準備ができたことを知らせる「フェロモン」を出すようになります。

この「フェロモン」は尿に多く含まれているようで、とある実験ではカニのメスの尿を含ませたスポンジをオスの前に出すと、まさに無我夢中といった体でオスはスポンジにしがみついて離れなくなったとのこと。
さて、魔性のフェロモンに引き寄せられてきたオスはメスを後ろからガッチリと抱きかかえます。その姿は、完全に女の子を背中側から抱きしめる恋人たちそのもの…と微笑ましい気持ちになります。
このようにオスは意中のメスをゲットするわけですが、問題はこの後。カニは全身を固い殻で覆われているため、ある瞬間を除いて交尾することが出来ないのです。
そして、checkある瞬間とは脱皮直後で殻がまだ柔らかい数時間の間なので、つまりオスはその時まで交尾することが出来ません。
その間オスはどうするのかというと、なんとほぼ飲まず食わずで脱皮までメスに抱き着いたまま数日を過ごすのです!
この間にも、メスのフェロモンに引き寄せられたオスたちがわんさかやってくるため、メスを取られないように抱きかかえたまま逃げたり、ハサミを振り回して追い払ったりと大忙しです。
より大きなオスに、無理やり引きはがされてメスを奪われてしまうということも珍しくはありません。
そんなこんなで、メスの脱皮の瞬間に抱きしめていたオスが勝者となり、交尾の瞬間を迎えます。

↑交尾前ガードを行うテナガコブシガニ(中央上:メス、中央下:オス)
このメスを抱きかかえる行動は「交尾前ガード」と呼ばれており、カニと同じ甲殻類であるエビやヤドカリの仲間にも見られる行動です。
ヤドカリの場合は、オスがメスの入った貝殻をハサミで掴み、脱皮までずっと引きずり回します。

メスからしたら迷惑極まりないようにも見えますが、メス争奪戦に勝つということはそれだけ強い優秀なオスということにもなるため、そ知らぬふりしてオスをふるいにかけているのかもしれませんね。
シオマネキの求愛ダンス

↑オキナワハクセンシオマネキ
メスを見ると有無を言わさず抱き着くカニがいる一方で、メスに対して求愛のダンスを披露して選んでもらおうとするカニもいます。
「シオマネキ」という2~3㎝ほどの小さなカニは、干潟(海の潮が引いて露出した砂泥場)に穴を掘って暮らしています。
このカニの特徴は、なんといっても大きなハサミであり、check左右どちらか片方の手だけその小さな体の2/3位の大きさのハサミを持っています。
また、大きなハサミを持つのはオスだけで、メスは両手ともハサミが小さいため、すぐに雌雄を見分けることが出来ます。
シオマネキのオスは、潮が引いたあとに巣穴から続々と出てくると、一斉にシェービングと呼ばれるハサミを振る行動をとります。
どのようにハサミを振るかというと、車をバックで動かすときに、外で合図する人が「オーライ、オーライ。」と言いながら腕を回すような感じです。
そのハサミの振り方が、潮を「来い、来い」と手招きしているように見えるため、「シオマネキ」という名前がついたともいわれています。
このシェービングは、潮を呼ぶために行っているわけではなく、実はメスに自分のハサミの大きさや動きの力強さをアピールするために行っている、まさに求愛ダンスなんですね!
メスは、頻りにハサミを振るオスたちの間をトコトコ歩き回り、気に入ったオスの求愛に応じて2匹でオスの巣穴へ消えていきます。そして、オスは中から巣穴に蓋をしてメスと二人きりの密室を作り、交尾の時まで過ごします。
メスを巣穴に連れ込んでしまえば一安心といったところでしょうが、それまではオスにとって苦難の連続です。
たくさんいるオスの中からメスに選んでもらうため、ひたすらハサミを大きく振り回し、時にはご近所のオスと喧嘩してよいアピール場所を奪い合います。

さらに、メスにアピールするつもりが捕食者である鳥にも目をつけられてしまうため、メスへの求愛ダンスはまさに命がけなんです!
まとめ
- ・オスはメスに抱き着いて他のオスから守る「交尾前ガード」を行う
- ・シオマネキのオスはハサミを振ってメスに求愛ダンスを行う。
抱き着いたまま数日間生活したり、命の危険を顧みずに求愛したり、意外と情熱的なカニたちの恋愛模様はいかがでしたでしょうか?
私たちが食べているカニもこんな情熱的な恋愛、あるいは試練を乗り越えてきたと思えば、感慨深くなりませんか?
今後、海や水族館でカニを見るときには、ペアになっているカニを探したり、恋路をそっと応援してあげてくださいね。
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