水族館で大きなサメを見ると、どうしても怖いイメージがあり何でもかんでも食べてしまう印象があると思います。
実はそれは大間違いで、ほとんどのサメが少食で気性も荒くありません。
現在世界にはおよそ600種類ほどのサメの仲間が確認されていますが、人を襲ったことのあるサメはおよそ30種類、特に確認されていることが多いのが3種類です。
しかもサメに襲われる確率は、人に雷が落ちる確率よりも低いと言われているほどです。サメが人を襲う、怖いというイメージはそもそも間違っているのです。
そんなサメの仲間でも水族館で特に人気のシロワニというサメの話をしたいと思います。
シロワニの生態
サメなのにワニ?
シロワニを紹介するとほとんどの方が、「ん?ワニ?サメなのに?」と聞かれます。
ワニと聞くと爬虫類のワニをイメージしますが、シロワニはれっきとしたサメの仲間です。
check山陰地方の沿岸ではサメのことを方言でワニと言うため、そこからそのまま方言が標準和名になったと考えられています。
ちなみに西日本の方ではサメのことをフカと呼び、皆さんご存じのサメのヒレのことをフカヒレとも言いますよね。
シロワニって怖い?
シロワニは世界の温かい沿岸の岩礁やサンゴ礁域に生息しています。
日本では南西諸島と小笠原諸島で確認されていますが、特に小笠原諸島では年中見られるようです。実際に小笠原の父島に行った時には、港の防波堤のすぐそばで見ることができました。
体は3m程まで大きくなり、流線形で2つの背びれは同じくらいの大きさです。
シロワニの見た目の特徴は何と言っても恐ろしい顔つきです。小さな丸い眼に小さな瞳があり、口にはフォークのように鋭く尖った歯が口からはみ出るほどズラリと並んでいます。
この歯を使って口に入るサイズの30~40㎝程の魚類や頭足類を、フォークのように突き刺しそのまま丸のみにします。
この歯では噛みきるという事が出来にくいので、口よりも大きなものは食べられません。よってもちろん人を襲うような恐ろしいサメではありません。
性格はおとなしくとても少食なサメです。水族館でも平均して1日に魚1匹しか食べませんし、繁殖期にはオスのシロワニで2~3か月餌を食べなかった記録もあるくらいです。
しかし体も大きく顔も怖いので、勘違いされやすい気の毒なサメなのです。
虫歯知らずのシロワニの歯
先述したようにシロワニの歯は細く鋭く尖ったフォークのような形をしています。シロワニの口の中には予備の歯も合わせて約600本の歯が備わっています。
生え変わるペースも早く、3~4日に一本はどこかの歯が抜け落ちて後ろの歯が前に出てきています。
シロワニを飼育している水槽の底を覗いてみると、もしかしたら白い尖ったものが落ちているかもしれませんね。
シロワニの繁殖
サメの繁殖様式は大きく2つのタイプに分かれます。
卵を産む卵生と、人間と同じように子どもを産む胎生です。
サメの種類によって卵生か胎生か様々ですが、シロワニは胎生のサメで子宮内にて数匹胎児を育てます。
そして1番最初に大きくなった胎児が同じ子宮内の他の胎児を食べる共食型なのです。
サメには2つの子宮があるので、基本的にシロワニは1回の出産に2匹の子どもを産みます。
水族館でも繁殖を試みるところはありますが、繁殖が難しいサメとしても有名で、未だに世界で繁殖の成功例は少ないのです。残念ながら日本ではまだ成功例はありません。
シロワニの命がけの恋
サメは魚であるにも関わらず、交尾をする魚で知られています。漢字でも交わる魚と書いて鮫(サメ)と読みますよね。
オスの腹びれの付け根には2本の生殖器(クラスパー)があり、メスの総排泄口に挿入し交尾をします。
その交尾をする時にオスはメスの胸びれに噛みつき体を固定します。特にサメの中でも鋭い歯を持つシロワニも、同じようにオスがメスに噛みついて交尾をしますが、メスが気の毒になるぐらいボロボロになります。
繁殖期になると傷だらけの雌が多くなりますが、まだ交尾が下手くそなオスが無理に交尾しようとすると、メスの頭や背中などに噛みつくこともあるため、全身が傷だらけになることもよくあります。
オスも子孫を残すために必死ですが、メスにとっては命がけなのです。
シロワニを守れ
今や貴重なシロワニ。
これだけシロワニの話をしてきましたが、まだまだ謎が多いサメの一種です。
ただ残念なことに現在シロワニの数が減ってきており、小笠原の島民の方も昔はもっと見られたと口をそろえて言っていました。
環境省が発表している海洋生物レッドリストでは、絶滅危惧種ⅠBに指定されています。これは絶滅危惧種のレベルの中ではⅠAの次にあたり、近い将来における絶滅の危険性が高いと言われているものです。
環境汚染や漁業による混獲、また餌となる魚介類の減少(これも人為的なものによる)などが絶滅の危機になる原因とされています。
シロワニは1回に2匹までしか出産できない上に、群れで行動するわけでもありませんので雌雄の遭遇率も低いです。
このままではシロワニはもちろんかなりの数の海洋生物が海から消えてしまいます。
漁業者は海での乱獲・混獲を無くすこと、我々消費者はとれた魚介類を感謝して食べること、海をきれいにすること、地球は人間のものだけではないという意識をもって生活すること。
これがシロワニやすべての生物の命を守ることに繋がると私は考えています。
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