モロッコとは?

モロッコ王国はアフリカ大陸の北西端に位置し、西は大西洋、北は地中海に面しています。東はアルジェリア、南は西サハラと接し、首都はラバト、最大の都市は商業都市カサブランカです。観光は経済の柱のひとつで、マラケシュやフェズの旧市街、青の街シャウエン、サハラ砂漠、港町エッサウィラなど、世界中の旅行者を惹きつけています。また、再生可能エネルギーの開発にも積極的で、太陽光発電施設は世界最大級の規模を誇ります。
日本からモロッコへは直行便がなく、パリやドーハ、イスタンブール、ドバイなどヨーロッパや中東の都市を経由して約17〜20時間。距離にして約1万kmと、日本から見ると遠い国ですが、地中海とアフリカの境界にあるため、多彩な文化が交わる場所でもあります。
植民地時代
19世紀末から列強の影響下に置かれ、20世紀初頭にはフランスとスペインの保護領となりました。フランス語は今でも教育やビジネスで広く通じ、スペインの影響は北部の町や文化に色濃く残っています。
人口と宗教
人口は約3,700万人(2025年推計)で、都市部への人口集中が進む一方、農村や遊牧文化も色濃く残っています。都市部と農村部の格差が大きく、教育や医療へのアクセスにも地域差があります。
国民の大多数(約99%)はイスラム教スンニ派を信仰しており、宗教は日常生活や食文化に深く結びついています。ラマダン(断食月)や礼拝の習慣が、人々の暮らしのリズムを形づくっています。
イスラム教の「ハラール」とは?

イスラム教では、豚肉やアルコールは日常的な料理に使われません。観光客向けのホテルやレストランではアルコールや豚肉も提供されますが、注文の際は確認が必要です。
魚や野菜、豆類、鶏や牛、羊のハラール肉を使った料理が基本です。タジンやクスクスも、豚肉やアルコールを使わずに作られます。
イスラム教の禁忌食(ハラーム)
イスラム教徒が守る食の規則は「ハラール(許されたもの)」と「ハラーム(禁止されたもの)」に分かれます。ハラームにあたる食べ物は、宗教上摂取が禁じられています。
- ・豚肉とその加工品:豚肉はイスラム教では絶対に禁止されています。ハム、ベーコン、ソーセージなども含まれます。
- ・アルコール類:飲料としてのアルコールはもちろん、料理に使われるワインやビールも原則禁止です。
- ・不適切に屠殺された肉:ハラールの方法で屠殺されていない肉は食べられません。特に牛や鶏などは、宗教的な儀式に則った処理が必要です。
- ・その他:血液、死んだ動物(自然死や他の方法で屠殺されたもの)また、肉以外でも、アルコールを含む調味料やゼラチンなども注意が必要です。
イスラム教の「ラマダン(断食)」とは?

ラマダンはイスラム暦で9番目の月に行われる断食月です。イスラム教徒は日の出から日没まで、飲食や喫煙を控えます。これは単なる食事制限ではなく、信仰心を深めるための行為です。
ラマダンの目的
ラマダンには次のような意味があります。
- ・自己コントロールを高め、日常の欲望や習慣を見直す
- ・心身の清浄を図る
- ・飢えに苦しむ人々への共感と思いやりを育む
ラマダン前夜の食事
ラマダンが始まる前夜、モロッコでは「シャハール・クドゥーム(断食前の晩餐)」として特別な食事を楽しみます。断食前の緊張感と、食べる楽しみの両方が入り混じる特別な時間です。家族や友人が集まり、断食に備えて栄養と力をつけます。
スープ(ハリラ)、パン、デーツ(ナツメヤシの実)、ナッツ、タジン、サラダ、スイーツなど
ラマダン中の食事
ラマダン中の食事は 「断食前にエネルギーを蓄え、断食後に体を回復させるためのリズム」 が大切で、モロッコの食文化ではデーツやハリラ、タジンなどの伝統料理がこのリズムを支えています。
・スフール(Suhur):日の出前(朝の礼拝前)に断食に備えて体にエネルギーを蓄えるために食べる食事です。消化に良く、腹持ちの良いパン、チーズ、卵、オリーブ、ヨーグルト、オート麦やシリアルなどが食べられ、水分補給も十分に行われます。ゆっくり食べ、日中の空腹を乗り切るための栄養バランスが大切と言われています。近年、断食前のスフールは、旅人向けに簡易的に提供されるカフェやホテルもあり、日常生活に合わせた食事が可能です。
・イフタール(Iftar):日没直後(夕方の礼拝後)に日中の断食で失った水分・栄養を補給するための食事です。家族や友人が集まってイフタールを楽しむことが多く、街の市場やレストランも夜に賑わいます。デーツ(ナツメヤシの実)でまず血糖値を戻すのが伝統で、ハリラ(モロッコのスープ)やサラダで水分・ミネラル補給。魚や肉のタジン、野菜料理、パンなどで主食とたんぱく質を摂取。甘いお菓子(バクラヴァなど)は締めとして楽しみます。断食後は急にたくさん食べず、ゆっくり少量ずつがポイントです。
ラマダン明けの祝祭(イード・アル=フィトル)
ラマダン終了の翌日から始まるイスラム教の祝祭で、日本語では「断食明けの祭り」とも呼ばれます。断食を終えた喜びを神に捧げ、家族や友人と祝う日です。
- ・食事やお菓子:バクラヴァやマシュムールなど甘いお菓子、タジン、スープ、パン、サラダ
- ・家庭やコミュニティでのシェア:隣人や困っている人にも分け与える
- ・意味:断食の達成感を祝う、家族・友人との絆を深める、社会的連帯を意識する
ラマダン明けの食事は、単なる食事ではなく宗教的・社会的な意味を持つお祝いで、モロッコでは街中や家庭で豪華な食卓が並ぶ特別な一日なのだそうです。
近年では“ゆるやかなラマダン”の選択肢もある

私はモロッコを訪れるまで、ラマダン中は日中に何も食べられないのではと想像していました。しかし近年は、ラマダンのスタイルもさまざまで、昔ながらの厳格なものから、都市部を中心に柔軟でカジュアルなものまであるのだそうです。
昔のラマダン
精神修養とコミュニティ全体の規律を重んじる行事として位置づけられていました。
- ・日の出から日没まで飲食はもちろん、水すら口にしない
- ・子どもや病人も基本的には少なめの食事で、節制が重視される
- ・社会全体が断食のリズムに合わせ、町の活動も落ち着く
現代のラマダン
近年は都市部を中心に、ゆるやかなラマダンも広がっています。
- ・観光客向けのカフェやホテルでは日中でも食事が可能
- ・若い世代や都市生活者は、断食の緩やかな実践や個人の選択を尊重
- ・町の商業活動や市場も以前ほど完全には止まらず、日中の活気は残る
私はラマダンを「苦しい修行のようなもの」と思っていました。しかし、モロッコでは家族や地域のつながり、伝統料理を楽しむ文化的な時間としても大切にされており、厳しさと楽しさが同居する特別な期間なのだと知ることができました。
それでも日没後のイフタール(断食明けの食事)や家族行事は大切に守られており、精神的な意味合いは今も色濃く残っています。
モロッコ“ととのい旅”第1弾は、イスラム教のハラールやラマダン(断食)などの食文化についてでした。
魚(とと)もいっぱい食べてきましたので、来月以降もお楽しみにご覧ください。
プロフィール

GLOCAL EATs
ソーシャルデザイナー 石松 佑梨(いしまつ ゆり)
サッカー日本代表選手をはじめ、世界で活躍するトップアスリートの専属管理栄養士として食トレを提供する。次代を担うジュニアアスリートの食育にも力を入れる。近年では雑誌や商品、レストランなどの栄養監修に携わる一方で、絵本作家としての活動に注力している。
著書:過去最強のコンディションが続く 最強のパーソナルカレー(かんき出版)



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