【トトノイメシ】滋味深き、福島県 郡山市の鯉バナ

管理栄養士日記

12月のトト(魚)ノイメシでは、福島県郡山市の鯉料理を紹介します。

先日、郡山市の地域に密着した旅行会社 孫の手トラベルさんの鯉とワインのマリアージュを楽しむツアーに参加してきました。このツアーは、郡山市が手がける3年目のモニターツアーです。

2020年度における郡山市の養殖鯉生産量は、市町村別で全国1位。ただし消費地としては確立していませんでした。そこで、鯉食文化の歴史を守り、そのおいしさを全国に広げ、そして新たな食文化の創造を目指すべく、郡山市と県南鯉養殖漁業協同組合が連携して「鯉に恋する郡山プロジェクト」が始動したのだそう。郡山市役所に鯉係という部署を設置するほどの力の入りようで、この日のツアーで鯉の説明をしてくれたのも、鯉係の職員さんでした。

【いまどきの鯉バナ】もう、泥臭いなんて言わせない!

旬のベジカフェバル Best Table 芹沢シェフの鯉料理とワインのマリアージュを楽しませていただくこのツアー。じつは、郡山出身の夫は、あまり乗り気ではありませんでした。郡山では、鯉は古くから内陸地方の貴重なタンパク源として食べられていました。夫は、子供の頃に食べた泥臭い鯉の印象がとても強く、苦手だったことが理由でした。ところが、芹沢シェフの鯉料理は、夫の鯉への悪いイメージを一転させました。グレープフルーツと合わせたカルパッチョや、レモングラスの効いたポワレは、幼少期に食べた鯉料理とは、見た目も味も、香りも…… 全く別物だったそうです。

そもそも雨の少ない郡山は、農業のために溜池が多くつくられました。明治時代に、安積疏水の完成した後は、その溜池で鯉の養殖が盛んに行われるようになりました。ツアーでは養殖池を訪問できませんでしたが、映像で見た池はとても美しく、昔の泥臭い鯉のイメージを払拭するための努力がよくわかるものでした。猪苗代湖からのミネラル豊富な水で育った郡山の鯉は、丸々と脂がのって、骨が細いのが特徴。圧力鍋で煮れば、骨までやわらかく食べられます。身はみずみずしい桜色をしており、泥臭さが全くないのだそうです。このようなおいしい鯉料理が郡山で食べられるようになったのは、生産する人、調理する人、そしてそれらを支える人たちの努力があってこそなのだと実感させられます。

現在は、郡山の食文化を伝えるメニューとして、学校給食でも鯉料理が提供されています。鯉料理を楽しめる飲食店も、3店舗から90店舗ほどにまで増えました。数年前、私が初めて郡山を訪れた際、駅前の居酒屋 安兵衛さんでいただいた鯉の刺身は、格別の美味しさでした。今や郡山名物は鯉料理となり、観光客も気軽にその味を堪能できるようになりました。

【薬魚と言われる鯉バナ】おいしく食べて、心とからだを整える!

ここまで郡山のおいしい鯉についてお話してきましたが、実は鯉は、古くから人々の健康を支えてきた歴史ある食材なのです。中国では縁起の良い魚として、特別な日に食されるなど、その栄養価と文化的な背景は深く、郡山においても内陸部の貴重なタンパク源として、長い歴史の中で人々に食されてきました。

ここでは管理栄養士、そして国際中医薬膳管理師の視点から、古くから滋養強壮に良いとされてきた鯉が、現代の食生活においてどのように役立つのか、詳しく解説していきます。

「梅雨」の鯉バナ

梅雨時期の食養生として、長雨によって体内に溜まりやすい水湿を取り除くことで、メニエルや頭痛、胃腸冷え、下痢、関節痛、むくみ、ニキビなどの解消に役立ちます。

料理)鯉のスープカレー
→同じく水湿取りに向くスパイスは、鯉との相性がいいです。フェンネルやクミンの香りは、水湿とともに気血両方の巡りもよくしてくれます。

「産後」の鯉バナ

薬膳ではたびたび、産後の母乳不足に鯉が用いられます。水分代謝を促し、乳腺のつまりを取り除くことで、母乳の出がよくなると考えられているのです。また、高タンパクな鯉は、産後の滋養強壮にも適しています。

料理)鯉と発酵白菜のスープ煮
発酵食品きのこ類には、鯉同様、胃腸のむくみを取り除き、消化機能を整える働きがあります。体を冷やさず、優しく水湿を取り除くことができるので、体力が落ちている時の栄養補給にもおすすめです。

「成長期」の鯉バナ

成長期の骨形成には、カルシウムとともにコラーゲンが重要な役割を担います。コラーゲンは、体内でタンパク質、ビタミンC、鉄から合成されます。タンパク質と鉄が豊富な鯉は、子供の成長に貢献できるでしょう。

料理)鯉の香り揚げ
→むくみ取りが目的なら揚げ物は不向きですが、唐揚げ粉に少量のカレー粉を加えれば、子供でも食べやすくなります。これに、ビタミンC豊富なキャベツやレモンを添えて、コラーゲン合成を促しましょう。

「飲み会」の鯉バナ

鯉に豊富なタウリンは、アルコール分解を助けることで二日酔いや脂肪肝になるのを予防します。お酒の肴として、鯉料理を取り入れれば、肝臓の負担を軽減し、すっきりした翌朝へとつなげられるでしょう。

料理)鯉の中華風刺身
→鯉には、肝機能をサポートするタウリンのほか、アルコール分解に欠かせないビタミンB1亜鉛も豊富です。生食なら、水に溶けやすいタウリンやビタミンB1も効率的に補うことができます。

「介護予防」の鯉バナ

加齢で噛む力や消化力が弱ると、タンパク質不足になりがちです。タンパク質不足は、むくみや筋肉量の減少、転倒リスクにつながります。消化がよく、高タンパク質である鯉は、高齢者や術後の低栄養改善に役立ちます。

料理)鯉の煮付け
→甘すぎる味付けは、むくみ取りには不向きですので、あっさりと淡白に仕上げましょう。また高齢になると、亜鉛不足で味覚が鈍り、栄養バランスが崩れてしまうことも。亜鉛豊富な鯉で味覚を正常に戻し、健康的な食事につなげましょう。

【まとめ】地産地消で続く、エシカルな食卓

結論として、鯉は老若男女問わず、どのライフステージにおいても、心身ともに健康をサポートしてくれる食材と言えるでしょう。さらに、鯉はエシカルな食の観点からも注目されています。

地球の海洋資源は有限であり、乱獲や環境破壊が問題視される中、持続可能な漁業の推進が求められています。MSCやASCなどの認証ラベルは、持続可能な漁業を行っていることを示す国際的な基準です。郡山で育てられ、地元で消費される鯉は、こうした観点から見ても非常にエシカルな選択肢と言えるでしょう。産地直結の消費は、輸送による環境負荷を減らすことにも繋がり、持続可能な社会の実現に貢献します。大切な日本の食文化である鯉料理を、未来の世代へと引き継いでいくために、私たち一人ひとりが意識的に選ぶことが大切です。

プロフィール

GLOCAL EATs 
ソーシャルデザイナー 石松 佑梨(いしまつ ゆり)
サッカー日本代表選手をはじめ、世界で活躍するトップアスリートの専属管理栄養士として食トレを提供する。次代を担うジュニアアスリートの食育にも力を入れる。近年では雑誌や商品、レストランなどの栄養監修に携わる一方で、絵本作家としての活動に注力している。

著書:過去最強のコンディションが続く 最強のパーソナルカレー(かんき出版)
インスタグラム:personal_curry
ホームページ:https://glocaleats.recipee.net

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